高松高等裁判所 昭和30年(う)257号 判決
第三点 所論は被告人原田万一同田中政一関係については被告人等の自白を補強する証拠を欠くと主張する。記録を精査するに、まづ被告人原田万一関係につき挙示の証拠中同被告人の検察官に対する第二回供述調書によれば被告人は昭和二九年五月九日施行の徳島県麻植郡鴨島町町長選挙に際しこれに立候補した阿部永一の選挙運動者であること、並びに同年同月一日肩書被告人自宅に右阿部永一と白井栄吉が来訪した際右阿部永一から原判決記載の趣旨で現金五千円の供与を受けた旨原判示に符合する自白があり、之が補強証拠として証人白井栄吉の供述が引用せられており、原審第二回公判調書によると右証人の右日時白井栄吉が所用で被告人方に赴く途中阿部永一と出会い、被告人方に同行し右白井は数分位で被告人方を辞去した旨の供述記載がある。さらに被告人の前記検察官に対する供述調書によれば被告人は以上のように供与を受けた五千円の処分について、自己所有の他の金銭とともに、その後家屋新築の材料代に金四千六百七十五円を近藤金物店に支払い(被告人の司法警察員に対する供述調書(昭和二九年六月九日付)によればその外なお数ケ所に支払いをしていることが窺われる)残金は逮捕の際家族に手渡した旨の供述があり、右近藤金物店の領収証も存するごとくである。
しかしておよそ自白の補強証拠としてはその自白の真実性を保障するものであれば足り、犯罪事実の全部に亘つて補強証拠を要するものではないがさりとて補強証拠の範囲程度をあまり広汎に認めることは自白強要による人権侵害の防止と誤判の危険を防止する為、憲法並びに刑事訴訟法が特に規定を設けた趣旨が没却せられることは勿論である。原審証人白井栄吉の前記供述記載は同人が被告人と阿部永一との金員授受を同行していて目撃したという如く本件公訴事実の一部の裏付けを為すものでもなく、又右被告人の供述に符合する同行の事実乃至は前記金員の使途に関する情況も右の程度では被告人の自白の真否如何にかかわらず存在し得る通常の事態にすぎないのであるから右自白を補強するに足る密接な関連ある情況とは認められない。従つて以上の程度では上記の証拠は補強証拠として適法のものと認め難い。
次に被告人田中政一関係については挙示の証拠中、同被告人の検察官に対する第二、三回供述調書によれば同被告人が前同様阿部永一の選挙運動者であること、同年四月二七日頃肩書同被告人自宅附近の煙草乾燥場にて仕事中、阿部永一が吉川良一、及び被告人井上隆義とともに自転車で同所に来、附近の原判示寺谷川架橋の石橋附近で同人から原判示の趣旨で金三千円の供与を受けた旨並びに右乾燥場には田中仙之助、木村保、田中光次郎の三名も仕事に来ていた旨の供述記載(自白)があり、之を補強するものとして原判決には右田中光次郎、田村仙之助、木村保の各検察官に対する供述調書が挙げられているが之によると右三名が前同日前記煙草乾燥場に被告人田中政一とともに仕事に行つていたこと、前記阿部永一が吉川良一等と同所に来て、立候補についてよろしく頼むとの挨拶があり、又被告人田中政一とは少し離れた寺谷川の橋の所で話をしていたとの趣旨の供述があるに止る。なお記録には吉川良一の検察官に対する第二、三回供述調書謄本があり、右同日吉川良一が阿部永一を案内して前記煙草乾燥場に行つたこと、その際阿部永一と被告人田中が別に話をしていた旨、又被告人井上隆義の検察官に対する供述調書には同人が阿部永一等と右煙草乾燥場に同道した旨の各記載がある。しかし以上の証拠が何れも右自白の補強証拠として前同様採用するに足らぬことはさきの説明に照し明らかである。
結局右被告人両名については有罪の認定をした原判決は訴訟手続に関する法令に違反したもので判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない。
(裁判長判事 三野盛一 判事 谷弓雄 判事 合田得太郎)